開催報告

見えるもの/見えないもの」


2023年1129日(水)に開催された第2回ワークショップ見えるもの/見えないもの 」の開催報告です。

登壇者の発表内容 

ワークショップ当日の撮影配信動画をこちらで公開しています。:第2回「見えるもの/見えないもの」

対話の概略 水野勝紀/石原広恵 (司会:福永真弓)

〇「見えないこと」の問題はなにか?

・データは中立でも、見る人の立場によって、見えるもの、見えないものが変わること

(e.g. ジュゴン保全者側と漁業者側とで変化する)―水野先生

・観光業者と地域社会の視点の違いなどもあり、見えないことの問題性は大きい―石原先生


〇科学主義の社会で、科学が提示するデータは本当に中立なのか?

・科学技術の発展で新しく得られるようになったデータの取り扱い(中立性の有無)は難しい―水野先生

・地域社会との話し合いなどの場において、(データが中立かどうかはともかく)データを提供することの意義はある―石原先生


〇「見えすぎること」の問題はなにか?

・詳細なデータが得られるという意味での「見えすぎる」に特に問題はないと感じる一方、特定のデータに「Focus」しすぎることの問題はある―水野先生

・どのデータを開示するのか、については慎重になる必要がある

(e.g. 希少生物種のデータを公開することで、人々が生息地に集中し、最終的に希少種の絶滅等につながるおそれがある)-石原先生

・公開するデータの選別を誰が行うのか、に問題がある―石原先生


〇「認識論的な不正義」のように、データを提示する際には誰をエンパワーメントするか(してしまうか)という問題が常に付きまとう。それを踏まえ、「不正義」を犯さないために、どのようにデータを取得すればよいか?

・データを取得する前に、見ようと思っているものの周辺に何があるのかを知ることが重要(e.g. 生物と経済がどこでリンクしているのか)-水野先生

・データ取得のために、研究者が地域に入るという行為そのものが、データ取得に影響を及ぼしてしまうことを意識するのが重要-石原先生


〇データ取得の際に気を付けていることは?

・地域社会に入る際に、自身の立場が中立であることを表明しておく―水野先生

・地域社会のどこから入るかで、既に「色」がついてしまう問題もある―石原先生

・地域社会に対して、自分が得たデータをフィードバックし、意見を貰うようにしている―石原先生


〇見えにくい情報の表現はどうすればよいか?

・地域社会の人々の意見には、必ず深い背景があるので、それをくみ取ることが必要-水野先生

・地域の人々の複数の価値観を聞くことが重要-石原先生


〇グラフィックレコーディングの場合はデータをどう可視化する?

・あくまでも自分たちはデータの「受け手」であることを意識している。先生方の言葉と作られるグラレコの間には、必ず情報の齟齬が生じるため、自分たちが講演者の先生方と同じ「送り手」として振る舞うと、それはデータの改ざんになってしまう-佐久間さん

・自分たちは先生方の言葉を解釈して、その結果をグラレコとして表している。グラレコだけで一人歩きしないように意識することが重要-松本さん


〇なぜ二人の先生方は海に着目したのか?

・元々医療超音波を専門としていた。超音波は海中環境の調査に有効であるため、自身の技能を活かせると考えた。また環境や海に興味があった―水野先生

・日本では陸資源より海資源の方が共有資源の枯渇問題が深刻であり、また漁業において共同管理の歴史があるため、興味があった―石原先生


〇データの共有はどうしているのか?

・漁業における漁場など、安易にデータの共有をするべきでない(漁業者の不利益になる)ものがあるので、地域社会との相談の上、承諾が得られれば共有するようにしている―水野先生

・共有されたデータの一つである論文は英語で書かれており、英語は(特に日本の場合)地域社会の人々全員には馴染みが薄い。また専門用語をそのまま伝えることはできないので、難しさがある―石原先生

・研究者の研究を分かりやすく翻訳できる人々が大学にいてもよいのではないか―福永先生


〇水野先生の「喋る大地」はどのように実装するのか?

・擬人化の難しさは感じている。まずはテキストで表現するのがよい。また、環境中でどの生物を代表とするかの問題もある―水野先生

・技術の限界を常に意識することが重要-石原先生


◇まとめ   福永 真弓

同じ海をテーマにしていても、先生方の間でデータを「見える化」する手法は大きく異なる一方、社会へのデータの提示という観点から、研究者が取り組まなければならない課題について意見が一致している点が興味深い。また、データではなく人に着目することが根本的には重要である。



視聴者アンケートの結果

ワークショップ終了後、アンケート (Googleフォーム) への回答を求めた。

回答者は、「教員・研究員」35.7%、「学生」「学校職員」がそれぞれ14.3%と、回答者全体の6割強が学生や教育関係者であった。

・全体の満足度は「満足」「まあ満足」が9割以上を占めた。 

図2. 「ご自身の研究倫理についての捉え方がこれまでと変わったと思いますか?」


・「満足」「まあ満足」の理由として「知見を広げたり、自分の考えを深めたりすることができた」「普段聴くことのない話をいろいろ聞くことができた」のほか、講演や対話の内容について参加者個人の意見が寄せられた。「普通」を選択した理由としては「結論に導く討論を期待していたが、偏見を正す見えないデータの使い方と議論が必要であるという曖昧な結論で終わってしまったこと」や序盤の音声トラブルが続いたためとする運営についての意見もあった。

・特に印象に残ったセッションとしては「対話」とする回答が71.4%ともっとも多く、ついで登壇者それぞれの「お話」が14.3%ずつと続いた。

・「対話」を選択した理由としては「対話のよって様々な視点や関係者の立場の違いというものがあることがよくわかった」「「見えるものx見えないものx倫理」のバトルが良かった」「仲介する役割があることで対話が深まったことが見事」の他、「(グラフィッカーが)「データの中立性と客観性は似て非なるものだ」とおっしゃっていましたが、大変重要な視点だと思った」「データから分析した人、公表する人、翻訳した人のバイアスや政治的背景などによりデータの中立性が歪んでしまうという事実を簡潔にまとめられていて、今後の自分の研究や発言の際に、常に意識しようと思った」といった意見もあった。

 

またその他に印象に残ったセッションとして、「お話②」が多かったが、複数選択できれば「お話①」も選択をしたという回答もあった。

※ 複数選択可としながら単一回答形式にしてしまっていた運営側の不手際による。

・その他、今後も本WSに期待する、アーカイブで公開しているものをもう一度視聴したいといった意見の他、今後ワークショップで取り上げて欲しいテーマとして「先進科学(量子力学)と仏教は通ずるところがあると聞いたことがあり、専門家どうしでどのような対話が生まれるか興味深い」「生殖医療について」という回答があった。